昨年、祖母は夜間にトイレで倒れました。悲しいことに、同居の家族のだれもそれに気づくことはありませんでした。早朝に発見されたときには、まだ床に伏しており身動きが取れません。
さいわい午前中に近くの総合病院で受診をしました。右足の大腿骨骨折ということで手術を施され、さらに脳梗塞も診て取れて、入院生活は予想よりうんと長くなりました。
寝たきりの生活は苦しいものです。自分自身では服を着られず、食事ができず、トイレには行けない、草取りどころが車いすに乗せてもらうのも一苦労です。
「早くうちに帰りたい。」
祖母がくり返しくり返し枕もとでつぶやきます。
入所者の方の中には、祖母と同じように寝たきりで過ごさざるを得ない方がいます。ベッドで静かに休まれている様子を見ると、ふと祖父母と重ね合わせてみている自分に気がつきます。
先日寝たきりの生活のAさんのリハビリのこと。日常体の動きが十分でないため、どうしても関節の各部分が硬くなりがちです。そうなると、ますます身体はいうことをききません。Aさんからことばで直接に言われなくても、顔から苦しい気持ちが十分に胸に突き刺さるほど伝わってくるのです。こちらもAさんと同じようにつらくなってきます。Aさんと同じように苦しいのです。
─大丈夫ですよ。─
ポジショニングを行います。クッションなどを用いAさんをゆったりとした安楽な姿勢にしていきます。また、クッションを両脇に入れて関節が硬くなる拘縮を防ぎます。そのとき、Aさんの表情を見逃すことはありません。曇りがちなAさんの表情がさっとすばやく穏やかにやさしくなっていくのです。
業務の忙しさに追われてトイレに行くことをなかば忘れていました。やっと、用をすませ、そのあと、洗面台の前に立ち自分の顔をながめてみます。自分の表情がなんだか晴れやかです。外へ出て窓から遠くを見やりながら、深く吸い込む息がとりわけ心地よく感じるのです。